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第26回 今日も、明日も  麻創 けい子

 最近のドラマ、コミックが原作のものが多いように思う。ストーリーも画も 出来上がっているのだから制作する側としては安心なのだろう。でも、なんだかなあ・・と思いつつ、思わず毎回見てしまったのが「アンメット」。

 

 役者が良いのだ。主演の杉咲花さんの演技力が優れているのは言うまでもな いが、彼女の婚約者だという医師、三瓶先生役の若葉竜也さんの、なんとも生 っぽいというか、リアルなセリフに引き込まれた。

 

 私のフィールドである舞台では、テレビや映画に比べて役者たちのセリフは どうしても張り気味になる。芝居臭が濃くなるのだ。それはそれで魅力でもあるのだが、今回のドラマのように生っぽいセリフを聞くと心がざわざわする。 もっともっと見ていたい。一年くらいやってくれないかな、などと思ってしま う。役者の力は偉大だ。

 

 以前、ラジオの現場でディレクターさんが言った。

「マイクをリスナー一人一人の耳だと思って語りかけてください」と。

これは語り手と聞き手の心の距離でもある。

 

 舞台では難しい表現だが、毎年企画している「街角の童話(めるへん)」という公演は、観るラジオドラマと銘打っているので、何とかして、目の前の人物が 話しかけてくるような生っぽいリアリティーを生み出せないだろうかと、毎回 毎回思案している。そのヒントを「アンメット」からいただいた気がした。

 

 現在は舞台にどっぷりの生活だが、ドラマシナリオを読むのは幼少期から変 わらず大好きだ。そこでちょっと数えてみた。果たしてこれまで何本くらいシ ナリオを読んだのだろう。シナリオ教室の生徒さんが書いてくる作品(長いものも短いものもあるが)だけでも、最低月に10本は読むので、1年で120本。教室は三十数年続いているから、なんと4000本以上? 図書館に並ぶような シナリオや戯曲もそれ以上読んでいると思うので・・・ギョギョギョの数字だ けれど、そんなのは、この世に生み出されたドラマのほんの一部にすぎない。 ギリシャ劇の時代から人はドラマを生み続けているのだ。それはもう天文学的 な数字になる。

 

 舞台、映画、ラジオ、テレビ、ユーチューブ、表現の場は変わっても、ドラマは生まれ続けるだろう。星に譬えるなら、アイスキュロスの「アガメムノン」、 ソフォクレスの「オイディプス王」、エウリピデスの「トロイアの女」は、白鳥 座や大熊座のような、名のある星座だ。シナリオライターの一等星は山田太一 さん、倉本聰さん、向田邦子さん・・錚々たる顔ぶれがきらめいている。その星空の端っこ、天の川の星屑の一つに私の書いたドラマもあるのだろうか。そう思うと、ちょっと誇らしい気持ちが湧いて来た。

 

 腐らず、焦らず、羨まず、ドラマを、舞台を作り続けて行こう。そのどこかで、観客を唸らせるような役者たちと出会い、新しい表現を見つけられたら幸いである。

また今日もドラマを見よう。

そして明日もドラマを作ろう。